工場萌え


いわき市の大剣公園より撮影


「工場萌え」という言葉がある。

煙突の吐き出す煙、赤く錆びた建物、怪しい光を放つ夜の工場群。そうしたものに美学を見出し、それを愛でるのが工場萌えだ。人名を奪いかねない公害を日本中に産み落としていた高度経済成長期から見たら、工場に萌える精神など奇怪なものと考えられるに違いない。

しかし、「工場萌え」の時代なのだ。毎月のように写真集が発行され、各地の石油コンビナートで夜景鑑賞ツアーが組まれているという。何が喜ばれ、何に価値が見出されるかということは、現代においては誰も予想がつかないように思われる。

新宿駅のそばに立つとあるホテルは、新宿駅に絶えずやってくる電車の騒音に悩まされていた。新宿の街を見下ろせる部屋だけに予約が埋まり、その逆側の、駅が見える部屋には見向きもされなかった。ところが、「鉄」を愛する人たちがこの部屋に熱い視線を送り始めた。目の前を通り過ぎる色とりどりの電車、網の目のように細かく分かれていく線路、そして、美しい夜景。それは、この部屋でしか味わえないのだと。

それは口コミやブログで広まり、ホテル側もこの動きに乗ることになった。この部屋を「トレインビューイングルーム」と名づけ、大々的にPRしたのだ。今では通常の部屋よりも高い部屋になったというから、煙たがられていたものが人気者になるというのは、意外によくあることなのかもしれない。



とまぁ、堅苦しい口調はこの辺にして、工場萌えも鉄ちゃんも、「マニアの世界」から始まりましたよね。彼らが何を見、何を感じているのかを知ることは大事なマーケティング手段になりえます。つまり、自らが「マニア」になるということです。僕も時々こうしてカメラと三脚を持って「工場萌え」の世界に浸るんですが、工場を眺めていると、意外にも別なアイデアが浮かんだりもする。


小名浜の夜景、きれいだと思いませんか?

工場萌えも鉄ちゃんも「写真」と無縁じゃないってことも大事かもです。ファインダーをのぞくことで、肉眼とは別のものが見えたりする。それに、肉眼で見るときも、何を撮ろうか、面白いものはないか常に獲物を探す目になっている。カメラを撮る人と撮らない人では、見ているものが違うということは、大げさですが言えるかもしれません。

写真もマーケティングも、角度を変えるってことができるかどうかが大事。マーケティングでできないときは写真で練習しましょう。頭の中がぐちゃぐちゃしているときに部屋を掃除すると頭までスッキリするみたいに、写真を撮ることを通して「角度を変える」というのがどういうことなのかを頭に叩き込んでおく。そうすると、自然とアイデアの角度の変え方もわかってくる。そういうもんなんです。

今日は何を撮ろっかな〜。


●写真と文 K松