いわき木材「地産地消」プロジェクト

Aです。先週末自宅で新聞を読んでいたら、久し振りに目を引く記事を見つけましたので、今日は掲題の記事について書いてみたいと思います。

地元木材の活用推進 ニュータウン 使用事業者に割安で分譲
福島県いわき市独立行政法人都市再生機構いわき都市開発事務所は11日までに、いわきニュータウンで地元木材を使った住宅を建築する民間事業者へ特別価格で土地を分譲する「いわき産木材住宅建築(地産地消・エコ)プロジェクト」をスタートさせた。
市内産の木材は安価な外国産材にシェアを奪われ(中略)林業就業者の高齢化なども問題になっている。こうした状況を受け、いわきニュータウンの残り区画のうち、22区画ほどを「特区」に位置づけ、建築住宅に地元木材を使用する業者を優遇することとした。福島民報12/12(土)朝刊


おお!!! ついにいわきでもこんなプロジェクトが始まったんですね。非常に喜ばしいことだと思います。記事によると、計画では公募条件として「いわき産木材を全材積の40%以上用い、トータルで県産材を60%以上使用した木材住宅を建築すること」を定め、条件を満たせば割安の価格で宅地を提供する。ということです。地産地消を推進するためにも、実に面白いプロジェクトですよね。

ただ、私がざっと記事を見た中で幾つか問題点も見つけました。


(1)いわき産木材の供給体制は保障されているのか?
(2)いわき産木材の証明は誰が責任を負い、どのように行うのか?
(3)「使用事業者に“割安で”分譲」という事が一人歩きしないか?


(1)については、まだ件数が少ないうちは問題ないと思いますが、いざ本プロジェクトが軌道に乗った際に供給が頓挫してしまったのでは、本プロジェクトが看板倒れになってしまいますので、予め林業家から製材業者まで幅広く協力を呼び掛ける事が必要なのではないでしょうか?

(2)については、業者若しくは認定機関(本プロジェクトのために設立する?)が行うかは分かりませんが、産地偽装などでの詐取が行われないように、チェック体制を万全に行って頂きたいものです。

(3)については、もし「割安」という事が強く出過ぎてしまうと、「地産地消」という本来の目的から遠くかけ離れた、ローコストビルダーとの価格競争になってしまい、木材業者/林業者への利益還元はおろか、間伐等の森林環境の整備促進といったものもままならなくなってしまいます。まずは、「地産地消」のメッセージを強く打ち出すべきではないかと思います。


そして、昨日のK松君の記事でも触れておりますが、「地産地消」のマインドを醸成するには、地域の山に入り、山の恵みを食べ、そして木の温かみや力強さ、厳しさを知ってもらうしかないと思います。そこに「地産地消」が生まれ、地域への愛情が生まれ、単なる居住スペースに過ぎなかった地方という空間に「ふるさと」という実体が浮かび上がってくるのでしょう。そして、何より地域で運動をサポートしていかないと、前に進むのはなかなか難しいと思います。

私としては、現状取扱の殆どが外材である以上、諸手を挙げて「地産地消」を礼賛する訳にはいかないのですが、こういったトレンドにもしっかりと向き合い、自分たちがどの様にこのプロジェクトに関与することが出来るか、日々考えていきたいと思っております。
■A■



そしてここからは私、K松にも言わせて下さいっ!! 

上海から「地元のために」戻ってきた僕としても、これって非常に興味深いプロジェクトです。是非推進してもらいたいと思っています。ただ、1つだけ大きな心配事があります。このプロジェクトの目的は何なのか、ってことです。


まず、新聞記事が言うように、いわき産の木材は安価な外国産材にシェアを奪われて瀕死の状態なのだろうと思います。ところがこの記事によると、いわきの木材で出来た家を作れば安くしますよ。ということなんですね。安さで適わない外材に対して、安さで勝負しようとしているわけです。

A先輩が言うように、優遇ばかりがクローズアップされると、安いからこの家に住みたいという人ばかりが増え、地産地消というコンセプトや目指すべきエコ社会がどうでも良くなっちゃいます。

本来、安さだけで勝負したんじゃいわき産の木材には勝ち目が無いんですよね。それなのに安さだけで勝負してきたから、林業が儲からなくなり、誰もやらなくなり、衰退してきたわけじゃないですか。それなのに同じことしても意味無いですよね。それならば、やはりこのプロジェクトは、安さではない、いわきの木材にしかない価値を届けなければならないと思うんです。


地産地消ばかりが先行するのにも違和感があります。僕は強烈な地産地消論者ですが、地産地消って何の為に行うんでしょうか。もちろん地元の産品を地元で消費することも目的なのですが、もっと大きな目的は、持続可能な循環型の社会を作る為だと思うんです。地元の産品だけ売れればいいというのでは、我田引水、エコにはなり得ません。

地産地消は手段でしかない。つまり、最終目的地ではないんです。循環型の社会を目指すと、当然、遠くからわざわざ化石燃料を使って運送する従来の流通ではなく、出来るだけ近くの木材を上手く使おうということになります。(これは「ウッドマイルズ」という考え方です。コメント頂いた走る木材商さま有難うございましたっ!!)

いわきで作られた木材を切り、何十年も持つ家を作り、植林をする。そして、その家に立て替え時期が来たとき、植林した木が大人になり、それをまた頂く。そうして回っていくからこそのエコであり、その循環型の社会を続けていく中で、地域への愛着が生まれていくんです。

いわきの天候の中で育ってきた木だからこそ、いわきに建てる住宅の材料として最も適するわけですよね? もちろん、いわきの人たちに市民性があるように、いわきの木にも性格がある。当然、曲がりもするし、縮みもするし、でも同じいわきの血が流れているから、生きているから、愛着も湧くし、その家に住むことで心のゆとりや安らぎが感じられるんですよね? 

でもそんないわきの木を楽しむには、木を育ててくれる人、切ってくれる人、製材してくれる人、建ててくれる人がいないと実現できない。そうですよね? だとしたら、これだけ多くの人の心が込められているのなら、本来こういう価値はそう安くは手に入らないはずです。


プロジェクト名、「いわき産木材住宅建築(地産地消・エコ)プロジェクト」には、しっかりと「エコ」が書かれています。であれば、工務店や建築会社、そして入居者みんながエコ社会という最終目的地を共有した上で、地産地消の意味や目的を考え、それを地域が共有していく為の機会にしないと意味がありません。

安くて品質がいい。これに勝ることは無いのですが、本来の意味を忘れ、地元の木が売れればいい、安い家に住めればいい、という感情しか生まれないのだとしたら、このプロジェクトはますますいわきの木材の素晴らしさを埋没させることになってしまいます。

素晴らしいプロジェクトです!!! だから、いわきの木材をいわきで使うことの意味って何なんですか? いわきの木材にしかない価値、お金に換算出来ない価値って何ですか? みんなはどんないわきに住みたいですか? 木って何ですか?木の家の素晴らしさって何ですか? エコって何なんですか? そんなことを、みんなで考えていきましょうよ。

■K松■