アガチス通信Vol.31 大工力で「M」を使え!!

K松です。


アガチス通信も今回が31回目。
毎回読んでいるそこのアガチスファンのあなたなら、
もうアガチスにだいぶ詳しくなっているはずですね。


今回のエントリーは「Mを使え」という内容ですが、
なんのことかは、後でゆっくり説明します。
今回のネタも「中級編」ですので、
まだ「初級」という方は写真を眺めていくだけでもいいので、ぜひぜひお読み下さい。


アガチスという木は「建具」に使われる。
とこれまで何度も言ってきました。
建具というのは要は「ドア」や「扉」、「戸」のことなのですが、
アガチスは加工性がよく、塗装との相性もいいので、
特に洋室を中心に、大変よく使われる材料として知られています。


こちらは先日訪問させていただいた埼玉県内の物件の写真です。
※取材協力/(有)シキヤマ宇都宮 様



この写真のどこに使われているかというと、扉の横方向の格子の部分に使われています。
右下の写真、これは和室の扉ですが、いやぁ美しいですね〜。
アガチスは和室をスタイリッシュに見せてくれるので、
こうした、きちんとデザインされた建具には特にマッチするんですね。


まあ建具についてはこれまで何度も解説してきましたので、
もう大丈夫かと思います。前置き長くてすいません、ここからが本題です。



|アガチスのグレード|


アガチスの板は、アテ(斜面で成長したことによる成長障害)などの欠点の有無で
「A」「S」「M」という3つのグレードに分けられています。
業界内では、「A」が建具用「S」が建築用「M」が建築・木工用と分けられます。


また、アテだけではなく、「赤シブ」という樹液の筋が多くある場合、
その色が好まれずにMグレードにされてしまいます。
(微小な赤シブであれば、AやSに区分されることもありますが。)
ですから、Mグレードは、机の引き出しの内側の板や家具の芯など、
目に見えない部分で多く使われてきました。
(さきほど紹介した扉は「建具」ですので、Aグレードが使われています)


しかし、「赤シブ」を欠点だと考えているのは実は業界関係者だけ、だったりもします。
工夫次第では、まったく問題ないばかりか「主役」にもなれる素材だと私たちは考えています。


今回紹介している埼玉県の物件の「枠」をご覧下さい。



木目に沿うように赤茶色の濃い線のようなものがあるのがわかりますか?
これが、「赤シブ」といわれる、要は樹液の固まってしまったものです。


アガチスは本来木目のはっきりしていない材として使われていますので、
「色白の肌が汚く見えてしまう」という理由で、赤シブは敬遠されてしまいました。
ですが、今こうして写真を見ても(もちろん現場でもそうだったのですが)、
「赤シブ」がむしろ適度なアクセントになって、
木の枠に「味わい深さ」をプラスしているのではないかと思うんです。



これならわかりますよね?
この赤い線状のものが「赤シブ」なのですが、どうでしょう。気になりますか?


私はまったく気になりませんでした。
そして、こんなにいい木が、「業界内の格付け」をだけ根拠に、
目に見えない部分に使われてきたのだと思うと、すごくもったいない気がしました。


この家を施工した大工さんや、Mグレードの材を卸した問屋さんも
私たちと同じ思いだったのでしょう。
クセの強さをうまく逃がしつつ、実にうまく、実に効果的に
Mグレードのアガチスを使っていただいています。



|今こそ求められる“大工力”|


このように、材を工夫して無駄のないように使うことが今、何よりも求められています。
大工は「大きく工夫する」と書きますが、
まさに、木の特徴を知りぬいた上で、視覚的にも効果的に木材を配置できるのが大工さんなんです。


適材適所という言葉があるように、
木材にはそれにふさわしい使い方が昔から言い伝えられてきました。
しかし、その中には、時代に合わなくなってきているものももちろんあります。


今回は「赤シブ」を例に考えてきましたが、
伝統や言い伝え、業界内の常識、そうしたものの意味を再確認し、
本当の意味で「施主のために」家を作ることが求められている。
そう思います。


赤シブはないに越したことはありませんが、赤シブをとうまく付き合うのも知恵。
私たちが守るのは、「重苦しい伝統や雁字搦めの常識」ではなく、
時代に合わせて日々それを取捨選択し、
お客様の要望に沿ってそれを大きく工夫できる「大工力」なのではないでしょうか。


赤シブがあるからダメ! なのではなく、赤シブがあるからプレミアム。
そういう発想の転換も「大工力」の1つだと思います。
そして、大工力は、大工さんだけではなく製材業者や問屋にも求められています。
いや、木材業界全体にも、強く求められているのではないでしょうか。
そんなことを、このMグレードの赤シブは教えてくれたような気がします。



う〜ん、アガチス、奥が深い。
この魅力、どうしたら1人でも多くの人に伝わるか、
これからも日々考え続けたいと思います。


以上、K松でした。