材木屋の価値


材木屋とは何か。


それを考えるための大きなヒントを、静岡県で見つけてきました。
これを「ヒント」だと感じてしまうのは僕がまだ駆け出しだからかもしれませんが、
勉強のためにと、恥を承知でここにまとめさせていただきました。



私たちが訪れたのは、静岡県三島市にある谷田木材。
建築部材などを卸売りしている「材木屋」です。
通りに面したオフィスの脇には、ほかの材木屋と同じように倉庫があり、
その倉庫の前には配送用トラックが停まっています。
僕が知っている普通の「材木屋」のように見えました。


しかし、中身はまるで違いました。



オフィスの脇には、俗に言う「銘木」の倉庫が、
そして、その脇には、その銘木をすぐに加工できる工房があるのです。


この倉庫には誰もが入ることができます。
目の前で一枚を選び、その場でテーブルや椅子や机をオーダーすることもできます。
職人さんが黙々と作業に当たっている工房には、
子供用に贈りたいとオーダーされた2脚のかわいらしい椅子がありました。


倉庫にある銘木は、1枚1枚に値札がついていて、
しかもその価格は非常に「安い」と思わせるものでした。
業界で言うところの「銘木屋」には私も何度か足を運んだことがありますが、
谷田木材の銘木は、かなりお買い得です。
(実際私も何枚かリアルに買おうと思ってしまうほどの価格設定です)


ここまでで、すでにいくつかのヒントが見えてきました。

●小売店
ユーザーが木に触れられる接点を作ることで、「木材の価値」を直接伝える情報発信基地としての機能を持たせることができます。さまざまな人が店にやってくることで活気も生まれ、結果的に口コミなどでその評判が伝播していきます。交流を通してものづくりのヒントを得ることができますし、「今木材に求められているものは何なのか」という問いに、いつも触れることができる。「本業」の卸売りにも、好影響を与えるのではないでしょうか。

●工房化
材料に付加価値をつけられる工房の存在は大きいと思います。自社生産ですので、外注よりコストも抑えられます。工房を「見学可」にすることで一般ユーザーの関心を引くこともできますし、ユーザー側にとってはガラス張りの生産により「安心」を見ることができます。さらに、工房を作ることで伝統の技術を守ることにもなり、職人たちの雇用までも創出することができます。これを「地域活性」といわずになんと言えばいいのでしょうか。社会的評価も上がるでしょう。


つまり、建築部材の「卸売り」という業態を維持しながらも、
家具メーカーとしての機能、販売店としての機能をも持っているのです。
谷田木材は、地方のいわば「中小企業」といえる規模ですが、
身の丈にあった形で“多角的に”材木屋をやっているわけです。



ただ、このくらいでは、材木屋に毛が生えたくらいだろうと思う方もいるかと思いますし、
肝心の材料がなくなったら商売などできるわけもありません。
が、しかし、話はこれでは終わりません。
別の場所に、「木の創庫」という別の倉庫があるのです。



考えられないような在庫量。
ここ以外にも数箇所の倉庫があるとのことですので、
おそらく1万枚を超える銘木が眠っているのではないでしょうか。


小田原城の改築工事に伴なって伐採された樹齢数450年の松、とか、
この木なんの木気になる木でおなじみのモンキーポッド、とか、
樹齢600年の神代杉とかどこそこの神社に生えていた杉とか、
厚みが20cm近くある桜や樺や欅がごろごろと転がっているのです!!!!
(しかも、倉庫の中で長期的な乾燥をさせることで商品価値が上がってる!)



谷田木材の窪田社長によれば、
各地の市場に赴き丸太で購入しているのだそうです。
今は、どの材木屋も「売れない」と言って手を出さないのだとか。
(だから安く丸太を買ってこれる!)
材木屋なのに、木材を買わない、丸太を買わないのだそうです。
売れない、のではなく、売ろうとしない、客を見つけられない、だけなのかもしれません。


そうした丸太の存在を独自の情報網でかぎつけ、
「目利き」を武器に買い付けてきて、自社でその丸太を製材し、
乾燥・管理をし、店頭にならべ、家具まで作り、アンテナショップで販売している。
林業」以外のことをすべて自前でやってしまっているんです。
それが谷田木材の「材木屋」としての姿でした。


インターネットで情報が拡散していく時代ですし、
流通のスリム化で、問屋機能の果たせない材木屋が次々に業績不振に陥っています。
新建材などがますます成長し、木の価値が伝わりにくい時代になっています。
だからこそ、こういう谷田木材のような強い材木屋が求められている。
そう感じます。


谷田木材では、県内の数箇所にアンテナショップを抱えているだけではなく、
木材のすばらしさを伝えるため、カフェなどともコラボレーションを進める予定なのだとか。
木の価値を伝える「空間」の形成にも余念がありません。



窪田社長の経営から、「材木屋」とは何かをもう一度考えてみます。

・木を知り抜いているからこそ、リスクを負って丸太を手当てできる。
・材木屋なのだから、玉を持っていてナンボである。
・本業はあくまで卸売業。山元と大工をつなぐ橋渡しをする。
・「木の価値を一般ユーザーに伝える」という責任から逃げない。
・木の用途を広めるために職人を雇用し、木材の新しい価値を創造する。
・工房を持つための必要最低限の設備投資を惜しまない。


右から左へと商品を流すことで「売上」を計上するのではなく、
「木材」の価値を、さまざまなカタチで提供しているわけです。
人々は、「商品」ではなくその「価値」にこそお金を払う。


材木屋とは。
いろいろ考えてみる、いいきっかけを頂いたような気がします。



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谷田木材
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ブログ:「木のあるくらし」
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